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| 「いつも家にいるので、子どもたちといっしょに過ごすことができます。うちにはテレビがないんですよ」と、利行さんは語る |
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著者も題名もわからないのだが、こんな内容の本が欲しい。姪の12歳の誕生日に、予算2000円で本を探してほしい──そんなときに、とびっきり心強い助っ人がいる。
「どんな本でも探しますよ。わたしのところの自慢はレファレンス・サービスですから。そして宅配便でお届けしますので、本屋にいらっしゃる時間のない方にはとても喜ぱれています。レファレンス・サービスと速さ、この2つがうちの特色です。電話、ファックス、Eメール、どんな手段でもかまいませんから、ご相談してくださるといいですね」
と話すのは、兵庫県明石市の『ヒントブックス』オーナーの山田利行さん(49)だ。
本屋といっても、いわゆる街の本屋さんとは形態がまったく違う。ヒントブックスは無店舗、セミ・オンラインシステムの書店。マンションの一室が自宅兼仕事場で、「つれあい」の輝子さん(53)と2人の経営。長女茅(かや)さん(中1)と次女麻さん(小5)も発注業務や発送作業を手伝っている。ちなみに店名のいわれは、客側と店側とがたがいにヒントを出し合って検索していくからだという。
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空はなぜ青いの?
ところでレファレンス・サービスってなに?
「これはリファレンス・サービスともいいますが、なにか情報を知りたい人にたいして、文献検索をしたりして相談に応じることです。公立図書館にはかならず司書の人がいるでしょ、この司書の役目の一つです」
「たとえぱ」と、山田さんはこんな例をあげてくれた。
座布団にしょうゆをこぼしてしまったが、どうしみ抜きをしたらいいか。こんどの休日に近場にハイキングに行きたいが、どんな場所があるか、そのとき食事はどこですれぱいいか。空の色はなぜ青いのか。こういった問い合わせに、司書は文献を調べたうえで答えてくれる。
「けっして自分の経験や知識でアドバイスをしてはいけないんです。文献にあたって、問い合わせに応じる。これがレファレンス・サービスです。してはならないのは、夫婦げんかの仲裁、医療に関する相談、宿題、クイズの解答などとなっています。不確かな書名を調べること、そして要望に応じて本を紹介することは言うまでもありませんね」
こんなユニークな本屋さんが誕生したのは1984年のことだ。
山田さんは甲南大学理学部物理学科在籍中に文学部の履修科目の一つ、図書館学も専攻した。その山田さんの少年時代から大学までの話を聞いてみた。
「虫好きの少年で、実験が大好き。小学校4年生のときにはビーカー、フラスコ、アルコールランプといった実験セットを持って実験に熱中していました。ですから小さいころから、自分の興味を充足させてくれる科学系の本を必要とした子でした。そして中学、高校の時代は少しずつ社会の仕組みや矛盾に気づく時代で、社会科学系のものに目覚めていったように思います。大学のころは正門をくぐると、そのまま図書館へ直行。ひたすら辞書、年鑑、全集、地図といったたぐいのものを読んでいました。それと250社余りの出版社に図書目録を請求して、全部目を通し、一冊ずつ感想を書いたりしていました」
山田さん自身、本の虫なのだ。
山田さんの大学時代は七○年安保、大学紛争、そしてもう一方に高度経済成長下のゆがみとしてさまざまな公害問題がクローズアップされた時期に当たる。甲南大学でも、大学創設以来初めてという学費値上げ反対闘争が繰り広げられていたという。
ためしにこう聞いてみた。
「バリケードの中にいらしたのですか」
「いや〜、わたしはバリケードの内にも外にもいませんでしたね。というのは、環境問題がわたしにとっては大きなウエートを占めていましたので、日本自然保護協会に入会して、「緑のデモ」といったような集会に参加したりしていました。その後、わたしが提唱者となって、兵庫県自然教室を設立したり、全国白然保護連合の活動を続けたりしていました。そんなこんなで6年半も在籍したのに中退したのかな(笑)」
大学時代から、子どもを農家に泊まらせて、さまざまな田舎の暮らしを体験させる自然教室を実践した。また、農村へ出かけて石けん運動、村の子どもに本を贈る運動、自分で物事を考えてほしいと「もぐら探検隊」も組織した。そして、豊かな人間関係をと大人も含めた「出会い塾」を結成する。そんな青春だった。
いずれにしても、大量生産・大量消費、便利さと対極にあるスタンスで、少しでも社会の役にたちたいという願いが貫かれている。
今日のヒントブックス設立のきっかけは、1984年、30年ぶりに新版となった平凡社の百科事典だという。
「加藤周一さんが監修された16巻のセットなんですが、発売前の予約で10セット売ったんです。それまでは正式な書店ではありませんでしたので、取次会社も全然相手にしてくれなくて苦労していました。百科事典のパンフレットが欲しくて平凡社に電話したら、わたしが10セット売っていることを知って、取次会社に書店コードをつくってくれたのです。本来は店舗を構えていないとコードはつくれないのですが、いろいろと便宜を図ってもらうことができました。この百科事典はトータルで60セットは扱いましたよ」
なにしろ、大学時代、ひたすら辞書や年鑑をひいていた山田さん。百科事典のおもしろさを説明する言葉もさぞかし熱が入っていたのだろう。こうして、書店コードを得たヒントブックスは、正式な書店となった。
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| 本の仕分けと発送は輝子さんの仕事 |
子どもたちもパソコンを使ってお手伝い |
これでんがな!!
発足当時からの最大の特色はレファレンス・サービスである。図書館学を学んだ山田さんにとっては当然の成り行きだっただろう。 レファレンスを受けるためには3600円の年会費が必要だが、現在会員は国内外に約400人。会員とのやりとりのなかから、どんどん情報が蓄積されていく。なかには、小学生の息子のために、130冊分ものリストを送ってくるお母さんや海外からEメールで依頼してくるお客さんもある。
ヒントブックスのお客さんには、山田さんの個性を反映してか、ユニークな人がそろっている。
本の包みが届いたときの気分はどんなものですか、という編集部の質問に答えてくださったのは「大阪のくみごん」こと大橋公美子さんだ。
「ヒントブックス知る前は、ふつうの本屋さんで買ってましたけど、思ったときに本屋さんに行けるのはまれ。フルタイムの仕事なので、野菜、果物、お造りを買った日は、まずあきまへん。包みが届いたら、そらも〜、手も洗わんと、うがいもせんと、買ってきた生ものも放り出してびりびり開けますねぇ。夫の本やったらガックリですわ。山田さんとこ知ったときは、これや、これでんがな!という感じでした」
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| 明石市のベッドタウンにあるマンションの4階に「ヒントブックス」はある |
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フランスに住むダニエル・みのりさんからは、こんなお便り。
「以前は欲しいもののリストを家族に送って、ただただ待つ状態でした。今は10日もあれぱ届きます。送料もできるだけ負担がないようにと急がないものはまとめて送ってくださるなど、お心遣いがありがたいです」
また、オランダ在住のセルメイヤ・藤田道子さんからは、「毎月かなりの本を注文していますので、ヒン トブックスのほうでわたしの興味ある本を知っておられます。ですからわたしが注文する前に予測して、取り寄せておいてくださるケースが多いのです。ヒントブックスの予測は、いままで百パーセント当たっています。満足し、感謝していますよ」というメールが届いた。
ヒントブックスは、言ってみれば本に関するかかりつけのお医者さん。長年つきあっていると、こちら嗜好を十二分に把握したうえで、かつドンピシャリの本を教えてもらうことができる。
日本でもっとも小さく、もっとも充実した本屋さんと言えるのではないだろうか。
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