| 『フォト』 1998年3月1日号 (時事画報社 発行) |
| 知的好奇心 無店舗書店が人気! |
| 村岡渉 (コラムニスト) |
| 今回紹介する兵庫県明石市の「ヒントブックス」はちょっと変わった本屋さんだ。無店舗本屋、つまりお店を持たず会員からの注文に応じて配達したり、宅配したりする。こんなふうに紹介すると今流行のニュービジネスのイメージだが、何年も前から山田利行さん、輝子さんのご夫婦だけでやっている年期の入った本屋さんなのだ。 きめ細かい本探し 注文から発送まで迅速 仕組みを説明すると、まず月300円の会費(入会時は1年分必要、継続は半年ごと)で会員になり、ファックスや電話、はがき、電子メールなどで欲しい本を注文する。ヒントブックスでは在庫は持たず、注文を受けた本は出版社に直接ファックスで申し込み、入荷の後、宅配便で会員に送る。送料は、少ない冊数だと沖縄から北海道まで全国どこでも160円。多くなっても1回につき最高400円まで。本代が合計15000円以上になると送料無料になる。料金の支払いは、郵便局の口座自動引き落としとなっている。 特徴は、注文から発送までが早いこと。よく、書店で注文したら本が入るまで1か月かかったなんて話も聞くが、ここでは早いと7日くらいで会員の手元に届く。書籍、雑誌、その他CDなど、書店で扱うほとんどのものが揃う。ただ、古本屋ではないので古書や絶版本などは扱っていない。 そしてここの売り物は、きめ細かい本探しをしてくれることだ。たとえば書名や出版社などが分からなくても、どんな本か説明すればそれを手がかりに探してくれる。ヒントブックスの得意な分野は自然もの、言葉に関する辞典類、歴史関係など。どちらかというと苦手な分野は小説などの文芸や芸能関係だそうだ。 他にも、「ある著者の3年間の著作リストが欲しい」とか「いじめに関する本のリストが欲しい」、また「4歳になる長男は本が大好きですが、これからどんな本を与えていけばいいでしょうか」というような相談にものってくれる。 これらの相談は無料。もちろんヒントブックスの会員になる必要があるが、夫婦二人だけでやっていて、そんな相談までしかも無料で受けて、はたして手が回るのだろうか…と、ちょっと心配になる。しかも、新聞などで紹介されたことから問い合わせが殺到し、会員数も以前の200人から倍の400人になったというのだからなおさらのこと。ところがご夫妻に尋ねてみると、それがとても上手くいっているそうなのだ。最初のうちはやっぱり大変だったようで、「問い合わせのほとんどは探してほ しい本に関するもので、最初はその検索に大変でした。でもそれが一通り済んでしまうと、後は一般的な注文が多くなってくるので、手が回らないというほどでもないんですよ」 ん? 近くの書店でも手に入るような本を、わざわざ会員になって注文してくるというのはどういうことなのだろう? 決して書店に困っているとは思えない東京や大阪の会員も結構いるそうだ。もちろん、充実した書店に恵まれにくい地域の人や身体の不自由な人、海外の日本人などが便利に利用しているのは納得できるのだが…。 その謎は、見せてもらった会報やお礼の手紙、ファックスを見るうちに分かったような気がした。会員とヒントブックスとが、本というものを通じてコミュニケーショ ンをしている様子が伝わってくるからだ。 欲しかった本が手に入ったときの喜びや身の回りの出来事などを、気張らずに会員がさらっと書いて送ってくる。山田さん夫妻も事務的な連絡だけではなく、月2回の「さーがす」という会報を出している。本の紹介、会員たちからの投稿など8ページほどの内容だ。なれ合いの感じはなく、親切できちんとした対応をしてくれるお店には客も礼儀をつくす…そんな感じが伝わってくる。 もちろんコミュニケーションだけではなく、入荷期日の短縮を支えている利行さんの作り上げたコンピュータシステムや宅配システムの工夫も人気のヒミツだろう。検索も、依頼者が馴染み客であるほど、その人の意図をより理解して探すことができるのだそうだ。 システムは近代的だが 昔ながらの本屋さん ヒントブックスのようなやり方に需要があるということは、裏返せば現在の本屋さんのかたちに不満な人も多いということか。洪水のようにあふれる新刊や雑誌、大型書店はますます大きくなるが、逆に品揃えが貧弱になりがちな街角の小さな書店は廃業が相次いでいる。そんな中、ヒントブックスはシステムは近代的だが、中身は昔ながらの本屋さん、何でも知ってる馴染みの店主といった感じなのかもしれない。 また、本の流通にも問題は多いようだ。このあたりに興味がある人は会報の中でも紹介されていた「不良のための読書術」(永江朗・筑摩書房)という本も一緒に勧めておきたい。筆者も今回取材のために読んだのだが、ずいぶんと勉強になった。 それにしても、本が昔ほど読まれなくなったといっても、ヒントブックスのような本屋に人気が集まるのをみると、本好きの人は相変わらず多いのだなあと感心してしまう 。 |
| 当ページ再掲載時の注釈 原文は本誌1頁分。原文は縦書き。 |