新文化 1998年10月15日付
儲ける方法教えて 店長に聞く販売戦術

創業14年の会員制無店舗書店
兵庫明石 ヒントブックス 山田利行氏

本を探すプロとして 全国400人の会員と交流

 会員制無店舗書店のヒントブックスは、兵庫県明石市ののんびりとした住宅街にある。…というより、無店舗書店である同店にとっては、生活の場が仕事場。窓から線路を行く列車が見下ろせるマンションの一室は、「ヒントブックス」であるよりも前に、運営する山田利行・輝子夫妻の、「住まい」なのである。仕事場は、コピー機とファックス、コンピュータ、各種資料が整理された「書斎」に当る六畳の一室。そして陽光が差すLDKの大きなテーブルも、届いた商品を発送用に仕分ける作業台になっている。

年会費は3600円

 現在会費は3600円。一回の送料はクロネコメール便の活用で最高でも160円と抑えられており、最近業務を開始したKDDの長距離電話サービスなど、常に最新の安価な通信手段を案内し、会員の負担軽減に努めている。
 インターネットの登場で通信販売など新しい流通形態の活性化が注目を浴びているが、同店の創業は1984年とそのブームに先んじており、そのため、現在でも会員の注文はFAXが7割、残りの2割が郵便、97年から開始したEメールでの注文が1割程度で、変化は「電話の注文がほとんどなくなったことでしょうか」と山田氏。
 ホームページも「更新頻度が重要」との考えから近い将来の課題としており、同店のPRはもっぱら口コミとメディアによる取材である。販売会社にも属さず、本店や本部といった別の販売経路も持たない。いわば客注に特化した外商書店に当るわけだ。

個別ニーズを把握

 その業態を生かし、通常書店では統計データとしてしか捉えることのできない顧客一人ひとりのニーズを把握・分析している。過去の注文やそれに添えられたメッセージは、クリアファイルとパソコンのデータベースを駆使して会員ごとに整理され、例えば身体の障害などに応じた連絡方法等の情報まで盛り込まれている。注文書に前回の感想や近況報告、イラストなどを添えてくる会員も少なくない。そこに見える会員の「顔」も、大切な情報源なのだ。
 単純な書名検索はもちろんのこと、例えば「環境ホルモンについて、わかりやすいパンフみたいなの」という照会には、低価格でページ数の少ない岩波ブックレットから、興味の広がりに応じて単行本の紹介、テレビの報道番組の紹介にまで及ぶ。「動植物図鑑を揃えたい」という読者からの相談に、「テレビの動物番組は好きか」といった突っ込んだ質問を返し、最終的には図鑑よりむしろ写真集をと、岩合光昭撮影『おきて』(小学館)をまず勧めたこともある。
 また、「本を勧めるということは、関心がある分野に関する幅広い情報を提供すること」と、書籍以外のCDやビデオも扱っている。

幽霊会員は作らない

 一人の会員の注文に応じることで得た知識は、蓄積されて次の問合せにフィードバックされる同店の「財産」である。レファレンス結果一覧表で紹介された商品を全部、という注文も往々にしてあり、一般の書店にある書籍でも「ついで買い」をするなど、1回の購入額が5万円を超える会員も少なくない。会員とのコミュニケーションを重視し幽霊会員は作らない方針だから、会員数がそのまま実購入者数となっているのも、同店の活況につながっている。
 また、毎月1〜2回発行の会員誌「さーがす」の郵送や、最近ではEメールによる業務日誌の公開など、店舗レイアウトに代わる顧客へのPR、コミュニケーションも欠かさない。
 山田氏は大学時代、図書館学を学び、本の検索や分類を得意とした。市民運動に関わり、メンバーから読書相談などを受けるうち、商売として本を扱いたいと考えるようになったという。発想のスタートが読書相談だっただけに、本を「探す」ことには開店当初からこだわりがあったのだ。

トーハンに正式口座

 個人の、しかも無店舗店でありながら、1984年当時大々的に売り出された平凡社の大百科事典を大量に販売するなど特色ある業績を上げ、トーハン神戸支店と取引を開始。「現在ではもう無理ですが、当時は現金取引なら何とか応じてもらえたんです。それが1年ほど。その後、正式に口座を開くことができるようになりました」。
 震災の前には会員数200人に達するかというところだった。その後、トーハン神戸支店全壊に伴う東京本社への番線変更を余儀なくされたが、会員数は次第に増加し、現在ではほぼ全都道府県に広がる400人の会員を擁する組織に成長した。この8月には、番線が大阪支店に変更され、注文品入荷日数がある程度保証できるようになったことから、会員以外の「ビジター」注文制も開始した。
 この復興への道のりが、97年9月に朝日新聞家庭欄に紹介されたことが、ひとつのジャンピングポイントだったと山田氏は振り返る。

版元はもっと工夫を

 「委託販売とは言っても、中小出版社は結局返品後の客注を待つようなもの。素早い対応のためにできることを考え、工夫することが必要なのに、注文品の問合せまで取次任せにしている版元すらある」と山田氏は出版社の意識の低さを嘆く。取次が大流通センターを作る、あるいは業務のシステム化を進めるだけでは解決はおぼつかない、とも。また帳合の問題はあるが、同店のような業態の書店が増加すれば、本をめぐる状況、注文品の状況を変えていける、ブックアドバイザーという一つの社会的位置が生まれる、と抱負を語る。
 インターネットの隆盛により、国内有力書店はもちろん、ヤマト運輸の物流網に乗ったブックサービス等他業界からの参入、版元の直接販売などに関心が寄せられている。一方、米国のアマゾン・コム等、海外の書籍販売組織が膨大なリストと迅速な対応で国内読者の需要を捉え、競合関係までワールドワイドになった側面もある。顧客とのコミュニケーションを重視する方法で収めた同店の成功は、これらのオンライン販売の一つの方向性を示唆するものと言えるだろう。
(坂本 綾)

当ページ再掲載時の注釈
  • 原文は写真2枚ありましたが、割愛しています。
  • 原文は縦書き。横書きにするために漢数字を一部 算用数字に書き直しました。 

Copyright © ヒントブックス