| 新文化 1999年9月9日付 |
| 客注専門の本屋さん 兵庫・明石市 ヒントブックス "個客"との共生、専門化、情報の共有化を実践 家族ぐるみのローコスト経営 |
| 街の本屋の生き残りキーワードは、顧客との共生、専門化、情報の共有化に見い出したいと平成10年10月15日号の本紙で報告した。その記事を見て、兵庫・明石市のヒントブックスさんがメールを下さった。同社ではさきのキーワードを実践されている。さっそく同社を訪ねた。会員制の無店舗書店だ。自宅マンションの6畳間を事務所にした、客注専門の本屋さんだ。従業者もご夫婦2人。 店舗費用は無い。客注専門だから返品ロスや在庫資金は微少。極めてロー・コストな書店だ。 売り上げ不振にあえぐ書店業界にあって、昨対売上2桁の伸びを実現している。その秘密に迫る。 顧客口座400件で常時稼働250件、1回の平均注文額は5000円以上。2万円を超す場合もある。通販というと、書店の少ない不便な地方の利用者が多いと想像しがちだが、会員は地元明石市は勿論、人口に比例するように、大阪・京都・東京・広島・名古屋・福岡、と全国にまたがる。最近スイス在住者からも注文があったばかりで、海外6カ国にも顧客はいるという。送品は、以前、近くは週1回配達していたが、宅急便より遅くなるので止め、全て宅急便やメール便で送る。労働時間や1日の仕事の流れなどはいずれ出版されるとの事なので、そちらに任せ、ここではポイントだけに絞る。 まずはお客様への案内。お客様に店の特徴を知らせる。店舗が在れば、立地や在庫が店の顔を作るが、無店舗書店だから、工夫が凝らされている。 案内チラシは、載せる情報量の多さの割に見やすい。自然に眼に飛び込んでくる。 書店は出版社がつくるチラシを貰うことに慣れているため、自作することはほとんど無い。作っても訴求力の乏しいチラシになってしまう。ヒントブックスの情報伝達編集能力は"個客"志向で貫かれている。 会報「さーがす」を、月刊B5判8頁、年間3600円の会員制で発行。注文送品に乗せて配付している。 会報といっても、日常業務や生活のあれこれを、のんびりと暖かく記し、本の宣伝もしっかり載る小冊子だ。作成編集は山田利行氏が担当、娘さんの茅ちゃんと麻ちゃんもカットを手伝う。山田氏は「週刊朝日」のコラムで「よくある良書推薦文や書評は、学者・研究者・文壇・絵本研究家など、専門家どうしで通じる言葉で表現しているのがほとんどです。『生活に即した視点』、その本がその人に『ホンマに必要なんか?』そうした視点や論点、表現が不足しているように思います」と書いている。 「さーがす」には「本と情報の海を航海せよ」とある。『情報洪水や情報過多』とは捉えず、本と情報の海を楽しく航海する羅針盤になる。 会員レファレンスが看板。 「こんなこと知りたいんだけど、いい本無い?」と聞かれた時に、図書館でも蔵書の範囲でしか答えられないし、親身になってくれる保証もない。しかし、ヒントブックスは親身に相談に乗る。親身だから一発回答はしない。会員とのやり取りを繰り返しながら最適な本に近づいていく。この過程で、会員自身も自分の疑問に新たな発見もし、ヒントを得ていく。そして目指す本にたどり着く。今では本屋以上のプロも会員の中にいて、気軽に教えて下さるとか。 山田氏は「早く手に入るか? 確実に入手できるか? お客さんはそれが問題でしょ」と語る。だから注文中でも中間報告を忘れない。この"個客"対応、レファレ ンスが信頼を得ている。 当初は、書籍総目録や出版社の新刊目録との格闘があったようだが、会員の注文履歴(カルテ)が整ってきた今、山田氏のカンも的中率を増し、インターネットの書誌検索でなんとか賄えるとか。 実務の管理は、受注から申告までをパソコンで統合管理。 データベース・ソフトとファックス・ソフトを組み合わせ、業務の流れに即して、全体をパソコン管理している。 その流れは、受注は手紙もあればFAX、電話、メールと、会員の注文しやすい方法で受ける。それを全て、会員別、単品別にパソコンに入力する。デジタル化することで、履歴は情報として収納蓄積される。顧客データベースが時間とともに巨大になり、活用も多様性を実現する。 受注分を入力すると、出版社別に分け、パソコンから出版社へFAX注文送信する。 入荷すれば、入荷月日や金額などが入力され、納品書がプリントされる。入荷月日から注文所要日数が算出され、最新1000件の受注履歴から、出版社別平均調達日数が常時、更新計算される。金額は顧客名と連動し請求書や送料の計算等に活用される。それらは月間で勘定科目別に分類され、決算用に。勿論送料や電話代の明細も分析対象にできる。デジタルならでは、パソコンならではの技だが、それを着想し、デザインし、ソフトを自店用に構成出来なければならない。パソコン画面の展開を拝見しながら、何年もかかって、その都度作り変えてこられた努力がうかがえる。パソコン活用はこうありたい。 取扱い商品は本だけではない。会員の生活を豊かに楽しくするものなら、何でも扱う、という姿勢を持つ。現在、壁にかける花の画(ボタニカル・イラストレーション)や煮干し、お茶も販売している。商品選定は、自分が買うつもりで決められている。 経営指標的に見るなら、ヒントブックスの資本効率、労働時間効率などの経営指標は、無店舗だけあって効率的だ。小規模書店の外商に向いている。大書店のインターネット通販はそのデータベースの量と質が競争に勝つ決め手とばかり、巨大化しているが、"個客"の身の丈に合わせるのは、客自身に任されており「本と情報の海」を会員一人ひとりのペースで、楽しく航海していく羅針盤は与えてくれない。 本に心や気持ちをのせて売るのが「街の本屋」なら、会員制だけに、顧客の顔が見える。きめ細かく会員と長くおつきあい出来る「街の本屋」のシステムを実践しているのがヒントブックスだ。 よい本屋の三カ条 ヒントさんからのヒント 最後に、今すぐ取り組めるヒントさんからのヒントを提案したい。 (1) 客注に対して「早く+確実+中間連絡」を実践する。「早く」は客注の調達日数を出版社別に測り、標準日数を出し、それを越えれば督促や品切れ情報の収集にかかり、結果を個客に伝える。これによって顧客との信頼関係を、書店の方から作る。 (2) 書店員は本をもっと読もう。お客さんとも同業者とも、本の話しをしよう。いきなり機関誌発行なんて真似は出来ないが、読んで感動した本にPOPをかけて、お客様の反応を観察しよう。 (3) パソコンを使いこなそう。教科書は自分の業務だ。操作方法は業務に使っているうちに身に付く。使い始めよう。そして通信でいろんな話しをしましょう。共生の仲間が一人ひとり輪を拡げましょう。 <寄稿> 大阪・甲川正文堂社長 甲川純一 |
当ページ再掲載時の注釈
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