| 『書店経営』 1993年12月号 (トーハン発行) | ||||||||
| 個性で生きる 小さな街の本屋さん 会員制無店舗書店できめ細かな顧客サービス ヒントブックス(兵庫県明石市) 山田利行氏に聞く |
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| レポーター 永江 朗 | ||||||||
| [リード] 無店舗販売による書店。しかもこれまであった辞書や年鑑、全集だけの無店舗販売ではない。お客様から一点一点注文を受けて、配達、または郵送する書店だ。読者との中身の濃いコミュニケーションもある。会員は現在北海道から沖縄まで全国に広がっている。自宅の一室でできて在庫はゼロ。当然返品もゼロ。人件費効率は最高と、いわば理想の書店だ。 |
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| ──無店舗販売の書店さんを取材するのははじめてです。どんなシステムになっているんですか。 山田 お客さんにはまず会員になっていただきます。お客さんから電話やファックス、手紙などで注文が来ます。そこで私たちはトーハンや出版社に発注します。トーハンの神戸支店にはほぼ毎日行っていますので、入荷した本は持ち帰り、配達したり、郵便小包で発送します。 ──代金の回収はどのようにしているんですか。 山田 郵便局の自動引き落としシステムを使っているんですよ。ほとんどの会員には郵便局の口座を作っていただいています。これは百口以上まとめれぱ利用できる制度です。郵便局がこのシステムを始めたとき、いち早く情報をキャッチしましてね。 ──現在、中小規模の書店では配達をやめるところも増えています。やめる理由のひとつは、日中誰もいない家庭が増え、配達はともかく、集金ができなくなっているからです。自動引き落としならば、解決されますね。 山田 この郵便局のシステムは小さな書店でも充分利用できるでしょう。引き落としの手数料は25円。こちらには毎月決まった日に入金され、しかもそれがデータとしてきちんと把握できるのですから、とても便利です。問題はお客さんには郵便局の通帳を作ってもらわなければならないこと。わざわざ通帳を作るのはと抵抗感のある方もいるでしょうね。通帳を作る作らない以前の、顧客との意思の疎通が大事です。 ──ヒントプックスさんの場合は、書店の意思に賛同した読者が会員になるわけですから、それはクリアできていますね。 山田 入会希望の方には案内のパンフレットを読んでもらいます。まずシステムについて理解してもらい、それから入会していただきます。入会した方には郵便局の口座開設のための書類などもお渡しします。会員には、ほぼ月に2回出している『ヒントブックスからの通信』を毎号送ります。 ──システムがきちんとでき上がっているんですね。でも、このシステムは沖縄でも北海道でも、とはいかないでしょう。 山田 沖縄にも北海道にも会員の方がいますよ。郵便は沖縄も北海道も東京も均一料金ですから。沖縄でも発送した翌々日には着いています。熱心ですよ、沖縄や北海道の方は。本の感想を細かに書いた手紙もいただきます。電話科金は、ここからですと名古屋でも沖縄でも全くかわりません。遠方の人はそのことをよく知っていますから、注文もファックスでどんどんいただきます。 ──なるほど、家庭用ファックスの普及や郵便局の自動引き落としなど、新しいものを効率良く取り入れることによってシステムができ上がっているんですね。 山田 注文書に細かくメッセージを書いていただくなど、お客さんとは密度の濃いコミュニケーション成り立っています。
読者の欲求に応えるレフアレンスを ──そもそもヒントプックスさんは、市民運動をしていて、資料が必要だったところから書店をはじめたそうですね。 山田 ええ。もうひとつ、私は以前からレファレンスに興味がありましてね。それを実践したい、生かしたいと思っていました。図書館よりも、もっと自由な立場でのレファレンスです。お客さんが探している本の題名だけでなく、背景にあるお客さんの目的にあったレファレンスをしたいと思いまして。 ──なるほど。 山田 ブティックに入ると店員がすぐに寄ってきて声を掛けてきますでしょ。ところが本屋では声を掛けてくる店員はいない。ブティックほどしつこく声を掛けられるのも嫌だけど(笑)、声を掛けて欲しいときもある。そのときレファレンスができれば、と。 ──お店がスタートしたのはいつごろですか? 山田 平凡社の『大百科事典』が出た年ですから、84年ですね。この年の春にトーハンの神戸支店に行って、現金で取り引きできないかと相談したんです。何も商売の宣伝をしないうちに「大百科事典」を注文してくれる人がいまして、10セットほど数がまとまってしまいました。大した数ではないけれどもと思いながら平凡社に電話すると、びっくりなさって、急いで来てくれました。そこから帳合ができました。 ──それがヒントブックスのスタートだったんですね。そのときすでに現在のような形態になっていたんですか。 山田 その時点では、経営的に見て書店とはどういうものなのか、あるいは流通の中でヒントブックスがどうなるのかなんて、皆目わかっていなかった。『大百科事典』が出たがために帳合ができて、番線や書店コードの意味がわかってきました。それから業界紙などを一所懸命読んで勉強しました。 ──市民運動から出発したからといって、そうした本しか扱わないということではないんですね。 山田 そうです。市民連動から始まったぱかりに、特定の本しか扱わないと思われやすいし、なかなか本屋であることが認知されませんでした。ヒントブックスは普通の本屋ですと言い続けて、最近やっと認知され始めました。 ──現在は200人弱の会員数だそうですが、スタートの頃はどのくらいの規模だったんですか。 山田 最初はごくごく小規模な個人的なつながりだけで始まりました。30人ぐらいの規模からですね。会費をいただく会員制にしたときは100人ぐらいだったでしょうか。 受注から入荷・発送までコンピュータ管理 ──失礼な質問ですが、会員制の無店舗販売で、採算面はいかがでしょう。 山田 いまのところまだ完全に乗ったとはいえません。会員数と客単価の問題なんですが、どこが採算点かも難しいですね。先日もトーハンから是非にと勧められてTONETSのスーパーフォンを入れました。月に5000円のコストですが、まぁいいかと、そう思えるところまではきているわけです。会員数でいうと、あと100人会員が増えれば採算はとれます。 ──客単価が一般の書店よりも高いんですか? 山田 そうですね。一冊だけ欲しいという注文はほとんどありませんから。 ──それはお客さんのコスト意識ですか。まとめて買ったほうがいいという。あるいは、どんな読者も欲しい本、読みたい本は1冊じゃないということでしょうか。 山田 後者だと思います。発送は入荷するたびにしますので、何冊かまとめて発注されても、送料の節約になるとはかぎりませんからね。欲しい本はとりあえず次々とヒントプックスに注文しておこうという気持ちなのでしょう。 ──もうひとつこちらの特徴はていねいなレファレンス・サービスですね。どんな問い合せがありますか。 山田 昨夜もファックスで問い合せがありました。企業に勤めている方からですが、仕事で「ジャパネスク」ということについて調べなけれぱならないので、と相談されています。昨夜のうちに調べてご返事しました。 ──私も仕事がら図書館へ行ったり、パソコン通信のデータペースを使って調べものをします。時間もお金もかかります。逆にいえば、仕事だから時間もお金もかけられるんです。山田さんは全くのサービスとしてなさっているわけですね。 山田 「ジャパネスク」について調べたことそのものはお金にはなりません。ですが、一件一件についてきっちり調べることが、この仕事をしていく上で、目に見えない利益をもたらすんです。レファレンスサービスは、こうした無店舗の形態では必ずやらなけれぱならないことだと思います。調べる手間を手間と考えず、楽しいと思い、私自身が調べながら、ぶーん、そうなのかと喜んでいくことが大事ですね。 ──好きじゃなきゃできないことですね。 山田 お客さんの欲しい本を売る、知りたいことを調べる。それだけじゃなく、いまの時代に必要なのは早く取ることです。お客さんは一日でも早いほうが嬉しいんです。それで、これまでのデータを蓄積して、どの出版社は何日で入荷するかを把握しています。私は自分でソフトを作りまして、お客さんから注文をもらったときに一度入力すれば、それが取次・出版社への注文も、入荷の記録も、お客さんへの請求も自動的に済ませるようになっています。 ──よく書店の悩みのひとつとして、発注しても入荷日の予測がつかないといわれますが、どうですか。 山田 出版社ごとに何日かかるかのデータがあります。出版社ごとの癖や、ベストセラーか否かでも違いますが、平均すると、土日を除いて平均5日ちょっとという数字です。一般的な数字よりもかなり早いと思います。 ──なるほど、ずいぶん早いてすね。今後、会員数の拡大は当然でしょうが、それ以外にどんな計画がありますか。 山田 とりあえず採算べースに乗せること。でもあまり安っぽい方法で会員を増やすのではなく、本当に本が好きなお客さんだけで増えていけばと思っています。採算べースに乗ったときは、また別の展開も思いつくかもしれませんね(笑)。 取材後記 電話とファックスとコンピュータ。出版目録と秤(はかり)。本棚2本。これがヒントプックスの全てだ。秤は郵送するときに計るため。本棚は入荷した本を配達や発送に回すのに整理するため。一部の見本を別として、在庫は限りなくゼロに近い。シンプル・イズ・ペストとはいうけれども、ヒントプックスはその理想形だ。しかも読者とのコミュニケーションは、店舗をもった書店より高密度だ。誌者にとっても嬉しい書店である。 |
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当ページ再掲載時の注釈
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